【執筆中】タイトル未定

1.事実は小説より奇なり。

 

春。新学期に新入社員。何もかもが新しくなる季節。気温も暖かくて過ごしやすい。新緑が輝き、草花が茂る、写真撮影にもってこいの時期だ。

「それなのに、肝心のカメラを忘れるなんて……」

盛大なため息とともに、戸山あかりは頭を抱えた。今日は業後に新入社員の歓迎会が行われる。趣味で写真撮影を嗜む彼女は、社長に直談判し、社内行事のカメラマンを買って出ていた。だが、肝心のカメラがなければ何もできない。

「といっても、どうせ居酒屋だから絵にはならないんだろうけど……」

いっそ、スマートフォンのカメラでなんとかしてやろうかと、某林檎社の愛用スマホを見つめた。スマートフォンの内臓カメラといっても、明るさと視野角の広さは馬鹿にできない。暗い空間でも、焦点を当てる場所に気をつければ明るく撮影できる。それから、今見ている対象をそのまま写真に切り取ることができるのもポイントが高い。

「いたっ」

今夜の作戦を考えていると、向こうから来たサラリーマンにぶつかった。いつもなら体制を立て直すのだが、上の空だったせいか、そのまま足をひねって転びそうになった。

あーあ、ここでイケメンが私を支えてくれたら。

などと、戯言を考えてみる。現実は、ただただ非常である。否、積極的に現実逃避をしているのは戸山の方だ。

戸山あかりの肩書きはプログラマーだ。IT系の企業にはよくある話だが、戸山は客先常駐の出向として働いていた。

一般的な考えとしては、会社に勤めればその会社が所有する建屋の中で、その会社の仕事をするものだ。だが、殊に人手が必要なシステム開発の案件では、発注した会社の協力会社が、発注先の人間として業務に従事する場合がある。協力会社のさらに協力会社が入る場合もあり、孫請け、玄孫請けなどと揶揄されることもある。

孫請けや玄孫請けと聞くと、悪い印象を受ける人もいるが、現場としては「システムが無事にリリースされればよい」と考えることが多い。使える人材が従事してくれれば、それに越したことはないのだ。

戸山あかりは、今日から新しい現場に参画することになっていた。